年金、迷ったら繰下げる
老齢年金繰下げの基本については下記のページで解説しています
老齢年金受給者のうち、約1.2%の人しか支給の繰下げをしないことはこのサイトでかつてお話しました。ほとんどの人は「長生きできる保障はないから、もらえるうちにもらっておこう」と考えているようです。
その考えを否定するつもりはありませんが、それでも私は、できることなら繰下げをした方がよいと考えています。その理由は以下のとおりです。
- ペナルティなしでいつでもやめることができる
- 65歳に遡って受給することができる
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金を個別に繰下げられる
ペナルティなしでいつでもやめることができる

定期預金や個人向け国債、個人年金などほとんどの金融商品は契約期間が定められていて、途中で解約したときにはペナルティとして利息等が大幅に減額されたり、元本割れになることもあります。しかし、年金の繰下げは最短で12月(1年)、最長で60月(5年)と期間が定められている以外は何の制約もありません。とりあえず繰下げにしておいて、その後もし年金を受け取りたいと思ったら65歳到達月の翌月から申出月までの月数分(ひと月あたり0.7%)の増額が加算された老齢年金を受給できます。
65歳に遡って受給することができる
もし繰下の最中にまとまったお金が必要になり年金を受取りたいと思ったならば、65歳到達月の翌月から請求月までの年金を遡って一括で受取ることもできます。但しもちろん、その際には繰下げによる増額はありません。
老齢基礎年金と老齢厚生年金を個別に繰下げられる
繰上げと異なり、老齢基礎年金と老齢厚生年金は完全に個別に扱うことができます。従って自身の経済状況に合わせて一方だけを繰下げたり、繰下げの期間をそれぞれに設定したり、あるいはどちらかの繰下げを途中でやめたりも可能です。
注意点(繰下げで損をしてしまうケース)
もちろん繰下げはいいことばかりではないので、問題点も指摘しておきます。
トータルの受取額
年金支給を繰下げた場合、概ね12年以上の間、年金を受取らないと結果的に受給総額が少なくなってしまいます。
あくまでも単純計算ですが、5年間繰り下げて70歳から受給したときは、82歳まで生存しなければ、トータルでの受取額は損になってしまいます。
■男性の繰下げ
男性の平均寿命を考慮すると繰下げをしないか、あるいは繰下げ期間を2年程度までに抑えておいた方がよいかもしれません。
詳細は下記のページで解説しています
年金の減額(削減)傾向
ひと月繰下げる毎に0.7%の増額になりますが、将来的にはマクロ経済スライドが発動されることによって実質的な年金額は目減りする可能性が高くなります。もちろん、マクロ経済スライドだけなら繰下げによる増額を相殺するほどではありませんが、今後も年金額を減らすための政策が施行されて、後になればなるほど元の年金額が減少するかもしれません。
年金財政が逼迫して、その結果支給額が減額になってしまう可能性もあるので、「こんなことなら早めにもらっておいたほうがよかった」と思うかもしれません。
自分の老齢厚生年金の額が少ないため、遺族厚生年金を受取る場合
自身の老齢厚生年金よりも配偶者の死亡により受給できる遺族厚生年金の額の方が多いときには、繰下げが無駄になってしまうことがあります。
詳細は下記のページで解説しています
配偶者加給年金がもらえる人
配偶者加給年金は支給要件となる配偶者が65歳になるまでの有期年金ですが、老齢厚生年金の繰下げ期間中は放棄することになります。繰下げによる増額もありません。
詳細は下記のページで解説しています
最後に、「受取総額で損得を判断するべきではない」
受取総額で考えると、実は繰下げには大したメリットはありません。上記で解説したとおり男性は総額では少なくなる可能性が高くなります。また、5年間繰下げて仮に100歳まで生きて年金を受取っても、繰下げない場合に比べて受取総額は1.2倍ほどにしかなりません。
それでも私は、できる範囲で繰下げを行うべきだと考えます。
老齢年金は「長生きリスクに備える」ための保険です。働くことも動くことも満足にできない状態になって、現金収入を得る手段が年金だけになったときのことを想像してみてください。5年間繰下げれば毎月受取る年金額が1.4倍以上になります。