マクロ経済スライドとは
「マクロ経済スライドによって年金が減額になる」と言われますが、正確には支給額の伸びを抑えるしくみです。
年金は物価や賃金の上昇に比例して増額になりますが、その増額を抑えるのがマクロ経済スライドです。これによって、実質的な年金額が目減りすることになります。
歴史的な転換点
公的年金は物価や賃金が上昇すればそれに従って年金額が増えるしくみになっています。
これは被保険者が日本国だから出来ることで、民間の年金保険では考えられないことで、年金に対する大きな信頼につながっています。
しかしこの制度が導入されたことによって、上昇分の一部もしくは全部が相殺されて実質的な減額になります。
どのくらい減額されるのか?
スライド調整率
公的年金被保険者数の変動率と平均余命の伸びの合計でマクロ経済スライドによって減額される率(=スライド調整率)が決まります。政府は毎年1%前後のスライド調整率を想定しているようです。
公的年金被保険者数の変動率
前々年度から過去3年間の変動率(減少率)の平均値となります。
平均余命の伸び
毎年、0.3%の定率で運用されています。
スライド調整率の計算事例
スライド調整率の計算法を平成28年度の事例で説明します。
・公的年金被保険者数の変動率:▲0.4%
・平均余命の伸びによる減額率:▲0.3%
→スライド調整率 : 0.996 × 0.997 ≒ 0.993
適用のルール
常にスライド調整率分がマイナスされるわけではなく、一定のルールの下で適用されます。
ルール1:上昇率が0以下のときは適用しない
物価(賃金)による上昇率が0以下のときにはマクロ経済スライドは行いません。
例えば物価(賃金)による変動率がマイナス0.3%あった場合、更にスライド調整率分をマイナスすることはなく、年金の減額幅は0.3%のままとします。
ルール2:ゼロ%を超えて減額しない
例えば物価(賃金)による上昇率が0.5%でスライド調整率が0.991(▲0.9%)だとします。この場合は0.9%をマイナスして0.4%の減額とはせず、前年度と同じ年金給付水準とします。つまり、この場合はマクロ経済スライドによる減額は0.5%分だけになります。
ルール3:ルール1にもルール2にも該当しないときは「減額割合=スライド調整率」となる
具体的には「スライド調整率による減額率 ≦ 物価(賃金)による上昇率」、かつ、物価(賃金)による上昇率がゼロよりも大きいケースです。
例えば物価(賃金)上昇率が1.0%、スライド調整率が0.991(▲0.9%)のときは、対前年比で0.1%の増額になります
適用できなかった分の「キャリーオーバ」
平成28年12月14日に成立した「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(年金改革法)」により、平成30年度から、適用できなかった分を繰越し、その累積をマクロ経済スライドができる年度に積み増しして年金を減額することになりました。
マクロ経済スライドが適用される期間
マクロ経済スライドの適用が開始されたのは平成16年度です。その時点では20年程度かけて、約15%の減額を達成する予定でした。
ところがマクロ経済スライドはデフレ下では全く機能しないものなので、平成27年度に初めて実施できる運びとなりました。
ただ残念なことに、その約10年の間に年金財政はますます悪化して、マクロ経済スライドが適用される期間は20年では済まなくなってしまいました。
報道等では30年間続くと言われていますが、「年金財政が安定(均衡)するまで」です。現行では30年で終わることはないでしょう。
今後の見通し
この先、どのくらい年金が減額されるのか多くの人が最も関心ある点だと思われますが、20%、30%、もしくはそれ以上になることも覚悟しておいたほうがよさそうな雰囲気です。とりあえず「年金財政が均衡(安定)するまで」は年金額は減り続けます。
ただ、現行のマクロ経済スライドは既に機能不全状態に陥っているので制度の大幅な改変、もしくは新たな年金減額の制度を設けて年金額の実質的カットが行われると思われます。具体的にはデフレ下でも年金が減額できる仕組みに改定されることは間違いありません。
(追記)
平成31年度の年金額は、上記で示したスライド調整率のキャリーオーバーが初めて適用されました。今後は更に、デフレ下でも年金の実質額を減額できる仕組みが強化されると思われます。