離婚時みなし被保険者期間と被扶養配偶者みなし被保険者期間
離婚したときの年金分割(合意分割、および3号分割)では、婚姻期間中の標準報酬と標準賞与の改定によって行われるのですが、1つ問題があります。厚生年金の額は(平均報酬(月)額×厚生年金の加入月数×給付乗率)によって求められます。従って分割を受けた(受け取った)月については全て厚生年金の被保険者期間でなければ計算が合わなくなってしまいます。
しかし年金記録で標準報酬を受け取った月が厚生年金の被保険者でないこと、例えば第1号被保険者や第3号被保険者である場合、あるいは20歳前や60歳以降で国民年金の被保険者でないこともあります。そのため、これらの期間を離婚時みなし被保険者期間として、厚生年金額を計算するときには厚生年金の被保険者期間に準ずる期間として扱うこととなりました。
■合意分割と3号分割については下記のページで解説しています。
離婚時みなし被保険者期間とは
合意分割における対象期間のうち、第1号改定者(標準報酬を渡す側)が厚生年金の被保険者であって第2号改定者(標準報酬を受け取る側)が厚生年金の被保険者でない期間は、第2号改定者の離婚時みなし被保険者期間となります(78条の6第3項)。
具体例
対象期間のうち、
・第1号被保険者期間
・第3号被保険者期間
・20歳未満もしくは60歳以上で厚生年金の被保険者に該当しない期間
被扶養配偶者みなし被保険者期間
3号分割のみが行われる場合、受け取る側の、分割が適用される第3号被保険者期間(特定期間)は、被扶養配偶者みなし被保険者期間となり、基本的に離婚時みなし被保険者期間と同じ扱いになります。
離婚時みなし被保険者期間の扱い
老齢厚生年金の計算
老齢厚生年金の額を計算する際には被保険者期間として扱われます(令3条の12の3及び令3条の12の9。43条1項及び3項読替)
みなし被保険者期間のみの場合でも受給資格期間の要件を満たせば、老齢厚生年金の支給対象になります。
老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給要件
老齢厚生年金の額を計算する際には被保険者期間として扱われますが、老齢基礎年金と老齢厚生年金の保険料納付要件を判定する受給資格期間には保険料納付済期間として算入されません。
その期間が第1号被保険者で保険料を納めず、免除や納付猶予も受けていなければ未納期間となります。
保険料納付要件を満たすことができなければ分割で受け取った老齢厚生年金も合わせて受給できなくなります。
60歳代前半の老齢厚生年金
60歳台前半(特別支給)の老齢厚生年金では、上記の保険料納付要件に加えて1年以上の厚生年金被保険者期間が要件となりますが、この要件に離婚時みなし被保険者期間は算入できません。
44年の長期加入者の特例
44年の長期加入者の特例の受給資格を判定する際、離婚時みなし被保険者期間を算入できません。
老齢厚生年金の加給年金と老齢基礎年金の振替加算
加給年金を受給するには厚生年金被保険者期間が240月以上必要となりますが、この要件に必要な240月に離婚時みなし被保険者期間を算入することはできません(78条の11及び78条の19、44条1項読替)。
■補足
加給年金は要件となる配偶者の厚生年金の被保険者期間が240月以上になると支給停止となります(46条6項)。ここでの被保険者期間についての読替はありません。従って、通常の被保険者期間に離婚時みなし被保険者期間を加算した月数が240月以上になると加給年金は支給停止になると解釈されます。
■振替加算
振替加算は厚生年金の被保険者期間が20年以上の老齢厚生年金が受給できるときには支給されませんが、上記捕捉と同様に離婚時みなし被保険者期間が加わり被保険者期間が20年以上なれば、振替加算は行われません。年金の分割を受け、離婚時みなし被保険者期間が加わったことで逆に年金総額が減ってしまう可能性もあります。
遺族厚生年金
遺族厚生年金の受給要件の死亡日要件のうち長期要件によって支給される遺族厚生年金については、みなし被保険者期間の標準報酬も年金額計算の基礎となります。
厚生年金の被保険者期間がなく、離婚時みなし被保険者期間だけに基づく老齢厚生年金の受給権者が死亡したときも老齢厚生年金の受給権者の死亡とみなされて、長期要件の遺族厚生年金が遺族に支給されます(78条の11及び78条の19、58条1項読替)。
遺族厚生年金の中高齢寡婦加算
長期要件の遺族厚生年金では、中高齢寡婦加算の受給要件として厚生年金の被保険者期間が240月以上(中高齢短縮特例の場合は15年~19年)必要となりますが、離婚時みなし被保険者期間は算入できません(令3条の12の3及び令3条の12の9、62条1項読替)。
障害厚生年金の300月みなし
300月みなしで障害厚生年金額が計算されているときには離婚時みなし被保険者期間は算入されません(78条の10第2項)。
補足1
この規定は離婚分割時のみなし被保険者期間で定めらているもので、3号分割時の被扶養配偶者みなし被保険者期間では、このような規定はありません。
補足2
短期要件の遺族厚生年金についても、このような規定はありません。
脱退一時金
脱退一時金の支給要件の判定と支給率の決定について、みなし被保険者期間を算入することはできません。