雇用再契約に伴う同日得喪とは?
同日得喪制度導入の背景
現在では再雇用制度が一般化し、60歳を過ぎても継続雇用されることが多くなりました。ただそのような場合でも多くは一旦退職という形を取り、改めて雇用契約を結び直すのですが給与額は60歳になる前に比べて大幅に減少するのが一般的です。そのため、所得が減ってしまう上に更に困ったことが起きてしまいます。
給与が下がっても直ぐには社会保険の保険料は安くなりません。保険料の計算の基礎となる標準報酬月額は、随時改定もしくは次の定時決定まで据え置かれ、受け取っている給与に比べてかなり割高な保険料を負担しなければなりません。保険料の負担は事業主との折半なので、事業主にとっても痛手となります。
同日得喪とは
このようなことが起こらないよう同日得喪をすることができます。
法令では、退職日の翌日に被保険者資格を喪失することになっていますが、その喪失日に新たな被保険者資格を取得するのが同日得喪です。
同日得喪の効果
同日得喪の届けを行うと、その月から標準報酬月額に改定されます。標準報酬月額が低くなるメリットは、
- 社会保険料負担の軽減(労使いずれも)
- 在職老齢年金による老齢厚生年金減額幅の縮小
この同日得喪は、もともと在職老齢年金による年金の減額幅を抑えて年金の手取り額を多くするための施策で、60歳台前半の老齢厚生年金を受給できる人(60歳~64歳)が定年を理由に退職するときだけに適用されていました。
もちろん、その効果は今でもありますが、60歳になっても老齢厚生年金が受給できない時代になり、再雇用による労働契約が一般化するにつれ、制度の中身も趣旨も大きく変わったように見受けられます。具体的には、制度はこのように変更されました。
- 60歳以上なら60歳台前半の老齢厚生年金を受給できなくても可
- 定年以外の理由で再雇用となった場合も可
- 再契約のたびに、繰り返すことができる
- 70歳以降で健康保険の被保険者のみとなった場合でも可
60歳以降も働きやすい環境を整備しようとする、政府の意図が感じられる改正内容となっています。
現在は既に男性の老齢厚生年金は60歳からは支給されません。この改正がなければ年金はもらえないのに保険料は高い給与を基準として計算され、しかも給与は減ってしまうという3重苦に陥るところでした。
同日得喪の要件
60歳以降に同じ会社に継続して(1日も間をおかずに)再雇用となった厚生年金、健康保険の被保険者が対象となります。
届出が必要
同日得喪によって標準報酬月額を変更するには資格の喪失届と取得届を同時に提出するのですが、その際には一旦退職になった事と再契約する事を証明する書類が必要となります。年金の事務方は厚生年金の加入者がどのような雇用契約を結んでいるかを知る由もないので、届けをしなければ同日得喪が行われません。
同日得喪は義務ではなく権利
雇用契約の変更によって給与が増えることもあります。そのような場合は随時改定や定時決定で保険料が変わるまで待てばよく、あえて同日得喪の届けをする必要はありません。同日得喪は義務ではなく権利だと覚えておくとよいでしょう。
注意点
標準報酬月額が変わることによって、健康保険の傷病手当金の額も変わることに注意してください。傷病手当金の計算の基礎となる標準報酬月額が少なくなれば、受給できる傷病手当金も減少します。