国民年金額決定法の歴史的経緯
平成27年度から、国民年金額の決定には本来水準のみを用いることとなりましたが、その経緯について解説します。
年金減額見送りが発端
平成16年の法改正前は、完全物価スライド制によって年金額が決定されていました。つまり、
・物価が○○%上昇 → 年金額も○○%増額
・物価が××%下落 → 年金額も××%減額
といった、至ってシンプルな方法です。
平成12年から14年にかけて、前年の物価に対して合計で1.7%下落しました。当然、年金額も連動して1.7%下げなければなりませんが、高齢者の生活を考えて政治的判断で年金額が据え置きとなりました。
据え置いた1.7%は将来、年金支給額が増えたとき、増加分と相殺(減額)して埋め合わせすればよいとする、甘い見通しでした。
この政治決定が、後に大きな混乱を招くことになります。
本来水準による改定
その後の平成16年には法律の改正があり、本来水準(現行)と言われる方法で年金額が改定されることとなりました。
しかし、この方式を採用すると先ほどの据え置き分にあたる1.7%が一気に減額されることになってしまい、影響が大きすぎるということで、特例措置が採られることになりました。
特例措置との併存
年金生活者への影響を小さくする対策として、物価スライド特例水準という改定方法が定められ、平成16年4月に支給されていた年金額(794,500円)を据え置くこととしました。但し、
・物価が上昇しても年金額は据え置いたままとする
・物価が下落したときは一定の条件で年金額を減らす
このようにして算定した特例水準の額と本来水準の差が埋まるまで高い方である特例水準の年金が支給されることになりました。
目論見と実態の乖離
一方の本来水準の額は物価や賃金水準が上昇すれば連動して年金額も増えます。やがて本来水準の額の方が多くなり、特例水準は消滅すると考えられていたのです。
ところが、実際には本来水準の方が高くなるどころか、その差はますます広がってしまいました。なぜこんなことが起こるかというと、特例水準の決め方に問題があったからです。
デフレで物価が下がると本来水準でも特例水準でも年金額は下がります。しかし、減額率(改定率)の計算方法が異なっていたため、その下がり方が本来水準の方が大きくなっていたのです。おそらくこの物価スライド特例措置を採用したときは、ここまでデフレが続くとは予想していなかったのでしょう。ほどなくして本来水準が特例水準を追い越すはずが、デフレの泥沼に陥って特例水準と本来水準の差は1.7%から2.5%へと、逆に広がってしまったのです。
強制終了
デフレ(物価下落)状態から抜け出すことができず、逆に特例水準と本来水準の差が開いてしまったので、ついに物価スライド特例措置を「強制終了」させることになりました。
具体的には、まず、平成25年の10月から半年間の年金を1%減額しました。その後の平成26年度と27年度の改定では強制的に年金額を調整し、特例水準と本来水準の差をゼロにします。
それ以降は特例水準は消滅して、国民年金は本来水準のみで年金額が改定されることとなります。
厚生年金は?
厚生年金についても特例水準と本来水準の関係については同様ですが、報酬の再評価率等の関係で一部異なる点があります。