年次年金額の改定:改定率の決定方法
ポイントは改定率
年金の改定額は、基準となる年の額に改定率を掛けることで決定されるのですが、この改定率は毎年度更新されます。
従って、毎年の改定率がどのようなプロセスに決まるのか、その点がポイントになります。
改定率を決める要素
改定率は、前年度の改定率に前年の経済状況を反映した率を掛けることで決定しますが、これは以下の要素から成ります。
68歳未満の人:
名目手取り賃金の変動率 × スライド調整率
68歳以上の人:
物価変動率 × スライド調整率
名目手取り賃金変動率
68歳未満の年金額を決める名目手取り賃金変動率は3つの要素から成ります。
1.物価の変動率
「前年の物価 ÷ 前々年の物価」で求められ、物価が上昇すれば1より大きくなり下落すれば1より小さくなります。
2.実質賃金変動率
賃金が上がっても物価がそれよりも上昇している場合には、実質的には賃金が減少していることになります。逆に、賃金が下がっても同時に物価も下がっていれば実質的に賃金は下がっていないと言えます。
このような実質的な賃金の上昇もしくは下落を「賃金の変動率 ÷ 物価の変動率」で求めます。
3.可処分所得割合の変動率
厚生年金の保険料率が上がれば可処分所得(所得のうち税金や社会保険料を除いた額)が減ることになります。この点を年金額に反映させるのが可処分所得の変動率で「3年前の厚生年金保険料率 ÷ 4年前の厚生年金保険料率」で求めることができます。
つまり名目手取り賃金変動率とは?
賃金の変動に物価変動や可処分所得の増減を加味して、実質的な賃金の増減を算定するための指標であると言えます。
年金の額は現役世代の所得を基準としています。この名目手取り賃金上昇率という指標を使って現役世代の(実質的な)賃金の増減に比例して年金額を変動させています。
物価変動率
68歳未満の人は上記の名目手取り賃金変動率ではなく、物価変動率によって年金額が改定されます。つまり物価が上昇すれば連動して年金額も上がり、逆に下がれば年金額も下がることになります。
この物価変動率は上記の名目手取り賃金変動率を求める際に用いた物価変動率と同じものです。つまり、68歳以降は物価の変動によって年金額を決めるのに対して、68歳になる前はこれにプラスして賃金の変動と可処分所得も加味されるといえます。
スライド調整率
マクロ経済スライドによって年金額の伸びが抑えられることになっていますが、その割合をスライド調整率といいます。
物価変動率や名目手取り賃金変動率の値によっては適用が見送られる(スライド調整率を1で算定)ことがありますが、その分は翌年以降に繰り越されます。
- 参照:マクロ経済スライドとは
実際の適用
実際の運用では、68歳未満の人も、68歳以上の人も一定のルールの下で、これまでは同じ率で改定されています。