年金の生計維持要件と生計同一
遺族年金の受取や被扶養者がいることによる年金の増額等には、生計維持や生計同一が要件となることがあります。
最初に両者の関係について整理しておくと理解が深まります。
生計維持されている人とは、①生計を同じくしていること、つまり生計同一であることと、②収入(所得)が一定額以下であること、以上2つの条件をいずれも満たす人になります。
つまり、生計維持が要件である場合は2つの条件を合わせて満たす必要があり、それに対して生計同一が要件となっているときには生計を同じくするだけでよく、収入額については問われない、ということになります。
生計同一要件を満たすケース
- 住民票上同一世帯の場合
- 住民票上の世帯は別であるが住所が住民票上同一世帯の場合
- 住所が住民票上異なるが、現に起居を共にし家計も同一の場合
- 単身赴任や就学などで住所を別にしているが、仕送りなど経済的援助と定期的な音信が交わされている場合
ひとつ屋根の下で生活していなくても、多くの単身赴任家庭や仕送り受けて下宿している学生は生計同一要件を満たしています。
その他にも両親が離婚して母親に引き取られた子も、父と定期的に面会し母が養育費等を受け取っている場合、別居でも父と子は生計同一であると認定されることもあるようです。
内縁関係の場合
正式な婚姻ではなく内縁関係の場合は、事実婚であると認定されなければ生計同一要件を満たすことができません。詳しくは下記のリンクを参照してください。
受給のために生計同一が要件となる対象者
- 死亡一時金を受け取る人(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)
- 未支給の年金、給付を受け取る人(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹またはこれらの人以外の3親等内の親族
- 配偶者が受給する遺族基礎年金の支給要件となる子(*1)、(*2)
(*1)
配偶者の遺族基礎年金の受給権は、死亡した被保険者によって配偶者と子が生計維持されていたことに加えて、配偶者に生計同一の子がいるときに限り発生し、その場合の受給者は配偶者となります。
(*2)
子に対する遺族基礎年金は生計同一の親がいるとき、その親が遺族基礎年金を受給している、していない関わらず支給停止になります。
生計維持要件とは
生計維持要件は上記で示した、①生計同一要件と、②下記で説明する収入(所得)要件の2つの要素から成り、いずれも満たす必要があります。
収入(所得)要件
- 前年(前年分が確定していないときは前々年)の収入が850万円未満もしくは所得が655.5万円未満である場合
- 上記に該当しなくても近い将来(概ね5年)以内に上記に該当することが見込まれる場合
一時的な収入、所得は除外します。
前年の収入や所得に関わらず、概ね5年以内にに定年退職や事業の廃業等によって年収が850万円、もしくは所得655.5万円に満たなくなることが見込まれる場合も収入要件を満たすことになります。
死亡した被保険者によって生計維持されていたことが要件とされる対象者
- 老齢基礎年金の振替加算の受給者(配偶者)
- 老齢厚生年金の加給年金の支給要件となる配偶者、子
- 障害基礎年金の加算対象となる子
- 障害厚生年金の配偶者加給年金の要件となる配偶者
- 遺族基礎年金の受給者(配偶者、子)
- 寡婦年金の受給者(妻)
- 遺族厚生年金の受給者(配偶者、子、父母、孫、祖父母)
- 中高齢寡婦加算の受給者(妻)
- 経過的寡婦加算の受給者(妻)
第3号被保険者の生計維持要件との違い
第3号被保険者における生計維持要件とは下記の相違点があります。
- 要件となる収入・所得額の上限
- 将来の所得・収入(見込み)額については考慮されない
詳しくは下記のページで解説しています
収入(所得)要件のポイント
これまでの収入要件の説明ですこし違和感を覚えた方もいるかもしれません。例えばこんなケースが考えられます。
共働き夫婦(共に第2号被保険者)の例で、もちろん同居しているとします。
夫の年収は妻の3倍、一般的には妻が夫の生計を維持していると言い難い状況です。
この夫婦の場合、もし妻が死亡した場合の夫の遺族年金はどうなるでしょうか。もう一度上記の生計維持要件を確認してください。
夫は妻の生前、妻と同居していました。そして夫の年収も850万円未満、つまり妻によって生計を維持されているとみなされ、他の要件も満たせばこの夫は遺族基礎年金や遺族厚生年金を受給することができます。
更に極端な例をもうひとつ。
夫は第2号被保険者のサラリーマン、妻は無職、無収入の専業主婦(第3号被保険者)だとします。このとき、夫の所得が600万の場合はどうなるでしょうか?
このような場合でも夫は妻によって生計維持されていたとみなされて、もし妻が死亡したときには夫は遺族基礎年金の受給要件のひとつである生計維持要件を満たすことになってしまいます。
- 関連ページ==>夫にも遺族基礎年金が支給されることに
このように年金制度の生計維持とは単純に年収によるものでなく、例え一方の収入が少なかったり全くの無収入でも、相互扶助でお互いの生計を支えあっているという考えに基づいています。